コラムColumn
車は“美”だけじゃないと教えてくれた1台~2012いすゞ 117クーペ(1979)~
街中で、ふと目に入った一台の車に足が止まった。
雑誌で何度も見ていたはずなのに、実際に目の前にすると全然ちがう。ボディのなめらかな曲線など、デザインが本当に素晴らしかった。
気がついたら買ってしまっていた。いすゞ 117クーペ。
デザインを手がけたのは、イタリアの有名なデザイナー、ジョルジェット・ジウジアーロ。1966年のジュネーヴ・モーターショーでもデザイン賞を受賞した、まぎれもない傑作だ。
購入のきっかけは、ほぼ100%「見た目がきれいだから」だった。まさに直観的な決断。
直観が悪いわけではないが、ひとつだけ後悔がある。それは、オートマチックの仕様を選んだこと。毎日の通勤や渋滞のことを考えると、クラッチを踏まなくていいほうが楽だろうと思ったのだが、これが大きな誤りだった。
アクセルを踏んでも、なんとなくワンテンポ遅れて車が動く感じ。運転していてもエンジンと話しているような感覚がなく、どこかよそよそしい。デザインはすばらしいし、乗り心地も悪くない。でも「この車を操っている」という手ごたえが、どうにも薄かった。
117クーペって、たぶん自分の手と足でしっかり動かしてこそ楽しい車なんだと、乗ってみてようやく気づいた。
それに加えて、もうひとつ期待外れだったことがある。私が車選びで特にこだわっている、「音」だ。
古い車には特有の荒々しいエンジン音がある。ソレックスなどのキャブを積んだ車のあの音に憧れていたのだが、自分が買ったのは電子制御式の燃料噴射エンジン。当時としてはとても先進的な仕組みで、始動も安定していて扱いやすい。でも、エンジンをかけてもふつうの車と変わらない静かな音がするだけ。心に響いてくるものが、正直なかった。
オートマはどこかつまらなかったし、音も期待していたものとはちがった。だんだん乗る回数が減っていって、最終的には手放してしまった。
見た目や直観的な判断ももちろん大事だが、「自分が乗っていて楽しめるかどうか」「子どものようにわくわくできるかどうか」…こういった視点も大事だと気づかせてくれた、117クーペは、そんな一台だ。

