コラムColumn

ゲームセンターから抜け出したような車 ~2006フェラーリ360モデナ(イタリア)2000~

フェラーリ328を手放したあと、次に狙っていたのは355だった。

だが355はマニュアル仕様で、どうしても気持ちが進まなかった。
そんなとき、出会ってしまったのがフェラーリ360モデナだった。

オートマ仕様という新しさもあったが、それ以上に心を奪ったのはその色だ。
スカイブルーの外装にクリーム色の内装。派手さではなく、爽やかで品のある色合いで、日本に1、2台しかないという希少性もあった。一瞬で魅了され、気づけば355を飛び越えて購入していた。

実際に乗ってみると、360はそれまでのフェラーリとはまるで別物だった。クラッチがなく、ギアチェンジはスイッチで行う方式。今でこそ当たり前になったが、当時はまだ珍しく「未来の車」に乗っているような感覚だった。反応はとても速く、アクセルを踏み込むと澄んだエンジン音を響かせながら一気に加速していく。その音はフェラーリらしく、胸を震わせる迫力があったが、操作感はどこかおもちゃのようで、ゲームセンターのドライブシミュレーターをしているような感覚でもあった。

この「誰でもうまく走れるように錯覚させる」のが360の特徴でもある。ハンドルを握っていると、自分が急に上手くなったような気がしてくる。328までの「自分の腕で操る」感覚とは対照的で、車に運転させてもらっているような印象だった。

楽で快適、そして気持ちがいいのだが、それは同時に“フェラーリらしさ”から遠ざかっていくようにも感じた。

そんな360との日々の中で、忘れられない出来事があった。

ある日、気持ちよく走っていたところ、覆面パトカーが現れ、注意を受けてしまったのだ。あまりにも爽快に走っていたのでスピードが出ていたのだろう。相手は自分より若い警官。我に返るとなんとも言えない恥ずかしさを伴った。あまり羽目を外しすぎてはいけない…。そう感じさせられる瞬間でもあった。うまくなった気になってしまう車だからこそ、これ以上楽しんでしまうと事故を起こしてしまうのではないか…。そう思うと、不安の方が勝ってしまい、次第に360から距離を置くようになっていた。

それでも、あのスカイブルーの車体が陽の光を浴び、クリーム色の内装とともに輝いていた姿は今でも鮮明に思い出すことができる。街を走るだけで特別な気分になり、まるで非日常を手にしたような高揚感を与えてくれる車だった。

美しさに心を奪われ、先走るように手に入れた一台。うまくなったような錯覚を楽しませてくれ、同時に大人としての節度を思い知らされた一台でもある。振り返れば、あの経験こそが360の思い出のすべてなのかもしれない。